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バッキンガム宮殿
19世紀初頭ジョージアンの最高傑作
王室の儀式や歴史、ライフスタイルを体感
バッキンガム宮殿は、女王の公邸であるとともに執務室を兼ねており、公式行事や国家的な行事の中心となっています。ナポレオンに勝利し、バッキンガム宮殿を国家の偉大な象徴とするとして、19世紀前半に改修させたのはジョージ4世(即位1820-1830)。建築家ジョン・ナッシュにそれを依頼したことで、このバッキンガム宮殿は見事にその姿を一変させたのです。増築によって規模を拡大させ、古い塔は新築し、さらにはナポレオンから勝利したトラファルガーとウォータールーの戦いを記念して、凱旋門(今のマーブル・アーチ)が建築されました。また宮殿は、セント・ジェームズ・パークの美しい自然の中にあり、その緑との調和を見事なほどに斬新に表現しています。ジョージ5世(即位
1910-1936)とメアリー王妃の治世になってからは、1913年にアストン・ウェッブによって、ポーランド石を使用し、頑丈な建物改築もされています。メアリー王妃が率先して、改築計画に貢献したことが現在の宮殿らしい姿の礎になっているといえます。部屋総数は公式大広間19、王家の為の部屋およびゲスト・ルームが52、スタッフの寝室188、オフィス92、バスルーム78。ここには約450人のスタッフが勤務し、毎年約4万人のゲストが宮殿を訪れています。
主な見所
グリーン・ドローウィング・ルーム(緑の客間)
英国らしいグリーンを基調とした壁、金のモチーフをふんだんにあしらった豪華な天井模様、華麗でありながらどこか冷静的な印象を与えるのがこの緑の客間。ゲストや公式の代表団はまずこの部屋へ案内され、謁見の間や音楽室へと進みます。もともとシャーロット王妃(ジョージ3世 即位1760-1820)の客間として使われていたという部屋で、ジョン・ナッシュの特徴が残されています。たとえば、天井の豪華なモチーフは、イタリア・ルネッサンスや古代ギリシャ、ローマなど幅広い文化から取り入れられています。ジョージ王朝の規範を拡大解釈して表現しているのがナッシュ風といえるのでしょう。
スローン・ルーム(王座のある謁見室)
映画「Queen」で、ブレア元首相が女王に謁見したシーンとは異なり、王と王妃が威厳を持って正式に招待客を迎える雰囲気のこのスローン・ルーム。豪華なシャンデリアに、部屋は20mもの長さで、バロック風の様式でデザインされています。王座上、両側の花かんむりを持った天使が舞う姿は、ベルナスコーニの傑作。また、石膏の装飾は、トマス・ストタードによってデザインされており、「テュクスベリイの戦い(北)」「ヘンリー7世とヨークのエリザベスとの結婚(東)」「ボズワースの戦い(西)」「ベローナ、戦争の女神、軍隊の激励(南)」を表しています。かつて上流階級の子女は、こうした謁見室で王・女王に謁見し、社交界デビューを果たしたといわれています。
ピクチャー・ギャラリー(画廊)
適度な照明により、明るさを保つこの部屋には、数々の王家のコレクションが展示されています。清教徒革命で処刑されたチャールズ1世(即位1625-1649)の肖像画は、イギリス肖像画の発展に寄与したオランダ人画家アントニー・ヴァン・ダイクによって1633年に描かれ、このスペースで圧倒的な存在感を放っています。その他のヴァン・ダイクの作品や、ルーベンス、レンブラントの絵画、豪華なアンティーク家具などが見ものです。
ステイト・ダイニング・ルーム(公式晩餐広間)
赤にリーフ模様が全体のベースとなり、煌びやかなゴールドで細部まで細工され尽くしたこの部屋は、公式晩餐会に使用される広間。白い暖炉には、楽器を演奏する女性が表現され、もともと音楽室として設計される予定だったことを物語っています。この部屋は、ウィリアム4世(即位 1830-1837)とヴィクトリア女王(即位 1837-1901)のための晩餐室として用意されたもので、石膏のラウンドル(紋章円)には、ウィリアム4世のWと、ヴィクトリア女王のVの頭文字が記されています。この部屋の特徴は、歴代の王室の方々の肖像画が飾られていること。暖炉上の壁には、艶やかなガーター・ロープをまとったジョージ4世の肖像画が飾られています。また、この部屋から窓の外を眺めると、庭が一望できる美しい風景が広がります。この庭は、キュー・ガーデンの園長ウィリアム・ラウンゼント・エイトンと、ジョン・ナッシュにより、ジョージ4世のために作られたもの。田園の風景を表現したものといわれています。この庭では、ジョージ4世の時代から夏のガーデン・パーティーが開催され、バッキンガムの年次行事として現在も受け継がれています。
ブルー・ドローウィング・ルーム(青の客間)
19世紀前半に作られたアンティークなシャンデリアの輝き、ジョージアン調の金装飾、ギリシャ風の石膏装飾、絢爛豪華な装飾尽くしのこの部屋は、青の客間と呼ばれ、大きな昼食会や公式の催しの際、ゲストに食前酒が振舞われるための場所。メアリー王妃が青い壁紙のデコレーションを指示したためこの名前がつきました。部屋の特徴的とも言える石柱は、コリント式柱と呼ばれ、ヴィクトリア女王の時代に、スカリオラ石の傷を覆うために、オニックスという縞大理石に似せて塗装されたものです。三角壁には、三つの塑像石膏浮き彫りを見ることができます。これは1835年のウィリアム・ピッツによって作られたもので、文学的テーマを持ち、シェークスピア(北)、スペンサー(南)、ミルトン(北向き)を賞賛するものです。この部屋、そして次へ続く音楽室と白の客間はバッキンガム宮殿の主要な場所で、その建具や備品の豊穣さは英国一。いかなる英国のステート・ルームをも凌駕するものといわれています。たとえば「偉大な指揮者のテーブル」。これは、1806年にナポレオンの委託により作られ、1817年にルイ18世からジョージ4世に贈られたものです。ここでは過ぎてきた時間と深く刻まれた歴史を体感することができます。
ミュージック・ルーム(音楽室)
庭の正面が一望できるこの部屋は、もともと「ボゥ・ドローウィング・ルーム(弓形の間)」と呼ばれており、半円形の弓形窓が特徴的です。通常は、緑の客間に集まった賓客が晩餐や宴会の前に拝謁を受ける部屋で、王家に生まれた子供が洗礼を受ける場所にもなっています。この部屋の特徴は、センダン科やシマセンダン科の良質木材、ユリノキ、マホガニー、西洋ヒイラギなどの木材を用いたはめこみ式「嵌木(かんもく)細工」の床。弓型に並ぶ印象的な柱は、瑠璃色のスカリオラ石で、力強い存在感を保っています。また壁の頂上にある三角壁のヴィクトリア・ピッツによる浮き彫りは、修辞学の進歩を表すテーマで、それぞれ「調和(北)」「雄弁(東)」「快楽(南)」を表しています。
ホワイト・ドローウィング・ルーム(白の客間)
華やかな肖像画、光彩を放つ黄色のソファやアームチェア、巨大な姿見、ジョージアン調のアンティーク家具・・・女性なら誰でも一度は憧れる贅沢尽くしの耽美主義的客間。ピラスターと呼ばれる付柱は、1800年代後期のもので白と金の繊細なフランス風壁装飾が気品を奏でています。こちらにはウィリアム・ピッツの12の傑作が部屋を囲むように見ることができます。「心を快楽へと目覚めさせる愛」「仮装舞踏会」「帰せられた勝利」「月桂冠を求める闘争」などそれぞれにテーマを持っています。また、大鏡のひとつには秘密の扉が隠れていて、王家の方々はその扉から公式の催しへ、お出になられるということです。
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